ルイ・ヴィトン ダミエ・グラフィット ポルトフォイユ・ブラザ
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null「部屋をまちがえたな。ここは社長室だよ」と一人が言った。 「出入禁止なんだ。札がかけてあるはずだがね」ともう一人が言った。  うしろ手でドアをしめて、ツカツカと二人の前へ進んで、ハンドバッグから刀自の手紙をとり出して、ペタンと音を立ててデスクに置いた。 「何だい、これは」  怒った声で言って、二人が手紙を見て、同時に目が飛び出しそうになった。  封筒の上書に、「東様 中沢様 とし」と墨書してある。 「柳川家の……すると、きみ……」  信じられない声で叫んで、二人はイスを立とうとした。健次は左手を挙げて制して、右手をのばして手紙を指した。  二人は一瞬ためらって、急いで手紙を封筒から出して、顔をよせ合った。  ……手紙の全文を健次は暗記している。刀自はあの筆跡でこう書いている。  この者は虹の童子の使者です。口の中に毒薬入りのカプセルを含んでいます。あなた方が、この指令を実行しなければ、いつでもカプセルをかみ砕いて死ぬ覚悟です。私を助けたかったら、そして今夜の放送を実現させたかったら、この指令どおりにして下さい。一点の違背も許されません。また時間はギリギリです。一分一秒の無駄もできません。  一、直ちに予備の放送車を用意して、この使者の指示どおりに走らせること。  一、絶対に警察へ知らせてはならない。  一、放送車の乗員は、使者、あなた方お二人、カメラマン、放送技師、運転手の六名とする。  一、乗員以外の何人にもこのことを知られてはならない。  一、待合せ地点では、私を伴った虹の童子の一員が、懐中電灯で輪を描いて所在を示す。その合図を認めた時点から撮影、放送を開始してよい。  ただし、使者が脱出を完了するまでは、撮影用のライトを使用してはならない。またテレビカメラはもちろん、普通カメラでも、使者を撮影してはならない。