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ルイヴィトンダミエキーケース定価編集

「おや、お出かけ? 珍しいわね」  景子は目を伏せた。 「どこへ行くの」 「お友だちのところへ、ノートを返しに」  景子はうそをいった。が、富喜枝は、景子の持っているふろしき包みを見、それが明らかにノートであることを認めて、 「そう」  と、そっけなくいい、二階に上がって行った。  近頃富喜枝は、景子に対していっそう冷淡になっていた。もともと景子には無関心な富喜枝ではあった。だが二か月ほど前、久我と富喜枝が居間で唇を合わせたのを景子が見て以来、富喜枝は景子にいちだんと冷たくなったのである。富喜枝はあのとき、階下には誰もいないと思いこんでいた。  が、その日の夜、美図枝が、 「久我ちゃんは、何時にいらしたの?」  と尋ねた。久我も富喜枝も五時前だったと口裏を合わせた。しかし景子は、二人が三時前にきていたことを暴露したのである。その三時に、富喜枝と久我は唇を合わせていたのであった。富喜枝は景子にすべてを見られたことを、そのとき察した。そしてそれ以来、極端に景子に冷たく当たるようになったのである。景子が学校に行こうが行くまいが、食事時に姿を現そうが現すまいが、富喜枝はいっさい小言をいわなくなった。それは景子にとって、むしろ気の楽なことではあったが、やはりその冷たさは、景子の心にいちだんと暗い影を落としてもいた。  景子は外に出た。雪まじりの風が斜めに吹いている寒い午後であった。景子はうつむいて、街のほうに歩いて行った。景子の抱えているノートには、母と姉が、久我を間に、みにくい愛欲の図をくりひろげていることが書かれてあった。そしてまた、『人と風土』に、事実無根の記事を書かせるために、どれほどの金が手渡されたか、景子の耳にしたその額も記されてあった。  そしてまた、父と後援者たちが、いかに悪辣《あくらつ》な謀議を重ねているかが、逐一書かれてあった。このノートを、景子は哲也の父大原達夫に持って行くつもりなのである。  そのことを決意したのは、ひと月前、哲也に、大原達夫の書きかけていた『声志内村史』が中止になったことを聞いたからであった。  電線が、風にひゅうひゅうとなった。石狩の野を吹いている風が、景子の体に突き刺さった。景子の足跡が、どれほども行かぬうちに雪に消えた。景子はマフラーをあごまで引き上げ風に逆らって歩いて行った。  あのとき哲也はいったのだ。 「声志内の村史はね、君のお父さんの口ききで始めたんですがね。ほら、比羅井という、あの顔の四角い男ね、あの男はたしか、あなたのお父さんの黒幕でしたね」 「ええ、あの人、父の参謀格なんです」
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